近年ペット市場が拡大し、犬や猫を家族の一員として迎える家庭が増えています。その一方で、ペットと一緒に住める賃貸物件は依然として不足しており、ペット可物件へのニーズが年々高まっています。実際、ペット可物件は他の物件と差別化を図れるため、空室対策としても注目されています。
しかし、ペット可物件には管理や運用の難しさも伴います。トラブルの発生やコストの増加を懸念し、導入に踏み切れない家主や管理会社も多いのではないでしょうか。
本記事では、賃貸管理会社や家主がペット可物件を成功させるために必要な準備や注意点、運用のポイントを解説します。これからペット可物件を検討する方にとって、悩みを解消するヒントとなる内容をお届けします。

ペット可物件のメリット

入居率の向上と家賃アップの可能性

ペットを飼いたい、またはすでに飼っている人にとって、ペットと一緒に暮らせる物件は限られた選択肢の中の貴重な存在です。現在、ペット可物件の割合は全体の10～15%程度と言われており、需要が供給を上回る状況です。このため、アクセスや間取りが多少劣る物件でも、ペット可であるだけで魅力的に映り、結果的に入居者が見つかりやすくなります。
さらに、ペット可物件は希少価値が高いため、家賃を上げることも可能です。実際、ペット可物件では敷金を2か月分に設定するケースも多く、修繕費の負担が増加するリスクを家賃や敷金に上乗せする形で補填することができます。

長期入居の傾向と安定した収益

ペットを飼う入居者は、住環境を変えることに慎重です。ペットは引越しによる環境の変化にストレスを感じやすく、飼い主はペットの健康を第一に考えます。そのため、ペット可物件に住む人々は引越しを避ける傾向があり、長期的な入居が期待できます。
もし退去されたとしても、需要に対して供給の少ない条件ですから新規募集も比較的スムーズに進みます。そのため空室期間も短縮しやすいというメリットがあります。
このように長期入居と安定した収益が見込める点は、ペット可物件ならではの大きな強みです。

他物件との差別化

賃貸市場では、競合物件との差別化が成功の鍵となります。立地や設備が同等の物件が多い中で、ペット可という条件を付けるだけで、他物件との差別化が図れます。特に、築年数が古い物件や、駅から離れた物件でもペット可にすることで新たな需要を掘り起こせる可能性があります。
例えば、ペット専用の設備やサービスを導入すれば、さらに競争力を高めることができます。ペット用の床材やキャットウォーク、ドッグランの設置は、飼い主にとって魅力的なポイントとなり、選ばれる物件になるでしょう。

ペット可物件のデメリット

ペット可物件には多くのメリットがある一方で、運営する上で注意すべき点も少なくありません。どんなリスクがあるのかを把握したうえで対策を講じておくことが重要です。

原状回復費用が高額になるリスク

ペットがいる生活環境では、物件に傷や汚れが発生しやすく、退去時の原状回復費用が高額になる可能性があります。たとえば、猫のひっかき傷や犬の爪でできたフローリングの損傷、糞尿によるクロスや床材の汚れなどが典型例です。
これらのリスクを軽減するために、契約書に「ペットによる損傷や汚れは借主負担とする」旨を明記することが必要です。また、敷金を通常よりも高めに設定したり、ペット専用の床材やクロスなどを使用することで、修繕費用を抑える工夫も効果的です。

騒音や臭い、共有スペースの汚れなどのトラブル

ペット可物件では、ペットの鳴き声や走り回る音、臭いに関するトラブルが発生しやすくなります。さらに、共有スペースにおける排泄物の放置や毛の飛散といった問題も、他の入居者から苦情が寄せられる原因となります。
これらを防ぐには、以下のようなルール設定が有効です。

• ペットの鳴き声が目立つ場合、防音マットやカーペットの設置を推奨する
• 共用スペースでのペットの移動は抱きかかえるかケージを使用する
• 共有スペースを汚した場合は速やかに清掃する義務を入居者に課す

また、入居者に対して定期的にペット飼育ルールを再確認させることで、トラブルの発生を未然に防ぐことができます。

他の入居者との関係悪化のリスク

物件をペット可に変更する際、既存の入居者がペット不可を前提に入居している場合、反感を買う可能性があります。動物が苦手な人やペットアレルギーを持つ人がいる場合には、特に慎重な対応が求められます。
ペット可への変更時には、アンケート調査を実施し、入居者全員の同意を得ることが理想です。また、反対意見がある場合は、反対者の退去後に実施するなど、タイミングを見計らうことも検討してください。さらに、共存ルールの策定や共有スペースの利用区分を明確にすることで、ペット飼育者と非飼育者が快適に共存できる環境を作りましょう。

ペット可物件にする前に確認すべきこと

「ペット可」の恩恵を最大限に活かし、リスクに備えるためにも、慎重な準備が欠かせません。
ここでは事前に確認すべきポイントについてご紹介していきます。

周辺エリアの市場調査

まず、ペット可物件の需要と供給状況を把握することが重要です。周辺エリアにおける競合物件を調査し、ペット可物件の割合や入居状況を確認しましょう。例えば、地域の賃貸ポータルサイトを活用したり、不動産仲介業者に直接ヒアリングを行うことで、正確なデータを収集できます。
ペット可物件が少ないエリアでは競争相手が少ないため、空室対策として大きなチャンスとなる可能性があります。ただし、需要がない地域でペット可物件に変更しても効果は薄いため、エリア特性を見極めることが重要です。

既存入居者との合意形成

既存の入居者がいる場合、ペット可への変更には慎重な対応が求められます。ペット不可を前提に契約している入居者がいる物件では、まずアンケート調査を実施して意見を集めましょう。同意が得られた場合でも、トラブルを防ぐために「同意書」を回収し、正式に賛成の意思を確認しておくことが必要です。
もし反対意見がある場合は、対応方法を検討する必要があります。例えば、反対する入居者が退去するまで変更を保留する、あるいはオーナー負担で別の部屋への引っ越しを提案する方法があります。入居者の声を尊重しながら、慎重に進めましょう。

管理規約の変更（マンションの場合）

マンションでは、ペット可にするために管理規約の変更が必要な場合があります。具体的には、以下の手順で進めることが一般的です。
管理規約の変更は時間と手間がかかりますが、ルールが整備されたマンションでは住人間のトラブルが減り、スムーズな運用が可能となります。

1.理事会での提案

ペット可への変更案を理事会に提出し、賛同を得ます。

2.住民説明会の開催

ペット可にする理由やメリットを丁寧に説明し、住民の理解を促します。

3.総会での決議

管理規約を変更するには、総会で4分の3以上の賛成が必要です。反対意見が多い場合は実現が難しいため、提案内容に説得力を持たせることが重要です。

ペット可物件の設備とリフォーム

必要な設備とリフォーム例

ペット対応の素材選び

ペット用クロスや傷に強い床材、防音マットは基本的な設備です。特に防音対策は、鳴き声や走り回る音によるトラブルを防ぎます。

快適なオプション設備

室内にはキャットウォークやキャットタワー、屋外にはドッグランや足洗い場（屋外水栓）を設置することで、ペット愛好家に魅力的な物件となります。

脱臭設備の導入

ペット特有の臭いを軽減するために、脱臭機能付きの空気清浄設備を設置するのも有効です。

設備投資の費用対効果は？

設備投資の規模は、物件の競争力やターゲット層に応じて決定します。たとえば、築年数が古い物件で差別化を図るにはペット専用設備の導入が有効です。費用に見合う家賃アップの例として、通常より5～10%程度の増額が可能となるケースもあります。
適切なリフォームを行えば、家賃の上昇や空室期間の短縮につながり、投資対効果を高めることができます。

ペット可物件のルール作り

ペット可に変更するにあたって、ルールを事前に整備することでトラブルを未然に防ぎ、入居者間の満足度を向上させることができます。

ペット飼育に関するルールの設定

まず飼育可能なペットの種類やサイズ、頭数を制限しましょう。一般的には、小型犬や猫1～2匹までを許可するケースが多いです。また、以下のような飼い主の責任を明確にしておくことが大切です。
騒音対策：犬の鳴き声が問題となりやすいため、防音対策やしつけを入居者に求める
糞尿の管理：排泄物を適切に処理し、共有スペースや敷地を清潔に保つことを義務化
臭い対策：脱臭設備の使用や定期的な清掃を入居者に推奨する
これらを契約書やガイドラインに明記し、ペット飼育者に守らせる仕組みを整えます。

契約時の取り決め

契約時においては、原状回復費用の取り決めが必要です。ペット可物件では、退去後の修繕費用が高額になるリスクがあるため、敷金を通常よりも1～2か月分多く設定することが一般的です。また、以下の書類の提出を義務化しましょう。
ペット飼育承諾書：ペットの種類や頭数、ワクチン接種状況、しつけ計画を記載
証明書類：狂犬病予防接種証明書や去勢手術済証明書などを求めることで、安全性を確保
これらの取り決めを徹底することで、トラブル発生時の責任所在を明確にできます。

共有スペースのルール

ペットを飼わない入居者との共存をスムーズにするため、共有スペースでのルール設定も欠かせません。具体的には以下のようなルールを設けます。
移動ルール：共有スペースではペットを抱きかかえるかケージに入れることを義務付け
清掃ルール：排泄物や毛で共有スペースを汚した場合、速やかに清掃する責任を入居者に課す
トラブル対応の明確化：問題が起きた際には、管理会社へ速やかに報告する体制を整える
これらを契約書やガイドラインに明記し、ペット飼育者に守らせる仕組みを整えます。

トラブル事例とその対策

いくら慎重に事前準備をしていても、実際にペット可に変更してみると問題が生じることはざらにあります。
ここでは、ペット可物件で起こりがちなトラブルとその解決策について解説していきます。

よくあるトラブルと解決策

ペットによる騒音

犬の鳴き声やペットが部屋を走り回る音が原因で、隣人から苦情が寄せられてしまうことがあります。防音マットやカーペットの使用を推奨し、飼い主にペットのしつけを徹底するよう求めましょう。

排泄物や共有スペースの汚れ

共有スペースに排泄物が放置されたり、毛が散乱するケースがあります。清掃義務を契約書で明記し、汚れた場合は速やかに清掃するよう指導します。

ペットの脱走・他住民に怪我をさせた

ペットが脱走したり、他の入居者に怪我をさせると大きな問題になります。共有スペースではリードやケージの使用を義務付け、飼い主に責任を負わせる契約内容を明確にしておきましょう。

トラブルを未然に防ぐポイント

入居時の丁寧な説明

契約時にペット飼育ルールや共用部分でのマナーについてしっかり説明します。

定期的なルール確認と注意喚起

定期的に飼育ルールの再確認を行い、全入居者への周知を徹底します。

ペット専用保険や保証サービスの活用

保証・保険サービスを導入することで、万一のトラブル時にも迅速かつスムーズな解決が可能です。

ペット可物件を成功させるための管理ポイント

ペット可物件を成功させるには、管理会社とオーナーが一体となり、戦略的な運用を行うことが重要です。

管理会社・家主として取り組むべきこと

管理会社は、ペット飼育ルールの策定や入居者への徹底した説明、トラブル対応の窓口としての役割を果たします。定期的なルールの確認や注意喚起も不可欠です。
またペット専用設備の導入や物件の定期的なメンテナンスも都度検討して、物件の魅力を維持していきましょう。もしトラブルが発生した際には、取り決めたルールが守られているかに着目しながら両者の意見を聞き、迅速に連携して対応しましょう。

ペット可物件のアピール

せっかくペット用の特化設備や安心できる環境を整えることができたら、最大限アピールしましょう。
ポータルサイトに掲載する際には、条件にペット可を必ず追加しましょう。ニーズの高い条件は、最初から絞り込みの条件に入れて物件を検索するエンドユーザーも多くなります。
マイソクでも大きく「ペット可」と入れるだけで充分目を引きますし、他物件との差別化ポイントが伝わりやすくなります。

まとめ

ペット可物件は、入居率向上や収益の安定化を図るための大きな可能性を秘めています。しかし成功させるためには慎重な準備と適切な管理が欠かせません。市場調査を通じて需要を把握し、必要な設備投資やリフォームを行うことが第一歩です。
また、ペット飼育に関する明確なルールを設定し、トラブルを防ぐための対策を徹底することで、安心して入居者が暮らせる環境を作ることが求められます。
今後、不動産市場においてペット可物件はますます有利な強みになるでしょう。ペット愛好家のニーズを捉えつつ、丁寧な運用を心掛けることで、長期的な収益と入居者満足度の向上が期待できます。
ペット可物件を検討中の方は、ぜひこの記事を参考に取り組みを進めてみてください。