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賃貸経営

賃貸の原状回復基準をくわしく解説!費用負担ルールとトラブル防止策

原状回復とは?その定義と法律上の位置づけ

国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは

原状回復とは、入居者が物件を退去する際に、故意・過失など通常使用を超えた損耗や汚損を復旧することを指します。1998年に国土交通省が公表した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、経年劣化や通常損耗はオーナーが負担し、入居者の責任による損耗のみを負担対象とする原則が示されました。これは、トラブルを未然に防ぐための基準として、今も広く参照されています。


2020年改正民法による明文化

2020年の民法改正では、原状回復義務が法律として明文化されました(第621条)。通常の使用や経年劣化による損耗は除外され、入居者の責任による損傷のみ原状回復の対象となる旨が規定されています。また、敷金についても「家賃滞納などに充て、残額は返還する」義務が明記され、これまで曖昧だった取り扱いが整理されました。


ガイドラインと法律の関係性

ガイドラインはあくまで任意の基準であり、法的拘束力はありません。
しかし契約書に記載された「特約」によっては、ガイドラインとは異なる条件で原状回復費用を入居者に求めることも可能です。特にハウスクリーニング費用など、通常損耗に関わる費用も、金額や内容を明記した特約があれば、入居者負担とすることが認められる場合があります。

費用負担の基準

負担の原則は「通常損耗 vs 故意・過失」

原状回復費用の負担における最大のポイントは、「通常損耗・経年劣化」と「故意・過失や不注意」による損耗を明確に区別することです。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の生活による汚れや劣化は賃料に含まれるものであり、オーナーが負担するべきとされています。例えば、家具設置による床のへこみや日焼けによるクロスの変色などはオーナー負担です。一方で、タバコのヤニによる変色や、掃除を怠ったことによるカビの発生、引っ越し作業中にできた傷などは、入居者の故意・過失による損耗とされ、入居者が修繕費を負担することになります。


トラブルが多い実例と負担者の判断基準一覧表

以下は、よくある原状回復トラブルの例と、費用の負担者をガイドラインに基づいて分類したものです。

損耗・汚損の内容 負担者 理由
壁紙の日焼け・テレビ裏の黒ずみ オーナー 自然現象や電気ヤケによる通常損耗
畳の変色やフローリングの日焼け オーナー 日照や経年劣化による自然な変化
網戸や襖の張替え(破損なし) オーナー 次の入居者確保のための化粧直し
壁紙のくぎ穴・ねじ穴 入居者 故意・過失にあたる損耗
台所の油汚れ(清掃不足) 入居者 善管注意義務違反とされるケース
冷蔵庫下のサビ跡 入居者 家電設置によるもので、入居者の管理責任
鍵の紛失による交換 入居者 入居者側の責任に起因

こうした明確な判断基準を基に対応すれば、不必要なトラブルを避けることが可能です。


特約で入居者負担になるケースと要件

原則では通常損耗の修繕費用はオーナー負担ですが、「特約」があれば話は別です。たとえば「退去時にハウスクリーニング代として3万円を負担する」といった条項が賃貸契約書に明記され、入居時に説明・同意がなされていれば、通常損耗でも入居者に費用を請求できます。

ガイドラインでは、このような「原状回復に関する特約」が有効と認められるためには、以下3つの要件をすべて満たす必要があるとされています。
1. 合理的な理由があること(暴利的でないなど)
2. 入居者が特約の内容を理解していること
3. 入居者が同意していること(署名・口頭説明など)
曖昧な記載では無効になる可能性もあるため、「ハウスクリーニング費:33,000円(税込)」のように、費用と範囲を明記することが大切です。

原状回復費用の範囲と負担単位

壁・床・建具・設備ごとのルール

原状回復費用は、損耗が生じた箇所ごとに負担のルールが異なります。国土交通省のガイドラインによれば、たとえば「壁紙(クロス)」については、タバコのヤニや結露放置によるカビは入居者負担、日焼けや家具設置による跡はオーナー負担です。床に関しても、飲み物をこぼしたことによるカビは入居者負担ですが、畳の日焼けや家具によるへこみはオーナー側が対応すべきとされています。建具や柱に関しては、ペットによる傷や落書きは入居者負担、自然災害によるガラス割れや網戸の劣化はオーナー負担です。


㎡単位・枚単位など負担の単位はどう決まる?

原状回復の費用は、単位ごとに負担が発生するのが原則です。たとえば、壁紙は「㎡単位」が基本ですが、汚れや破損が一面に及ぶ場合は「壁一面単位」での張替え費用を請求されることもあります。畳は「1枚単位」、柱やふすまも同様に「1本・1枚単位」での計算が基本です。フローリングについては、破損が一部であれば㎡単位、広範囲に及ぶ場合は「居室全体」として見積もられることもあります。


ガイドラインに基づく経過年数と耐用年数の考慮

負担額を決めるうえで重要なのが、経過年数の考慮です。ガイドラインでは、設備や内装の耐用年数を基に、入居者の負担額を按分する計算式が示されています。
例:壁紙(耐用年数6年)を2年目に交換する場合
負担割合 =(6年-2年)÷6年 = 入居者負担66.7%
入居前から劣化がある場合(例:壁紙の価値が80%)にはその分を差し引いて調整すべきとしています。耐用年数が過ぎていれば、原状回復費用の全額がオーナー負担になるケースもあります。
このように、単位と年数の両面から合理的に計算することが、トラブル防止においても重要です。

具体的な計算例で見る原状回復費用

クロス交換6年耐用の具体例

壁紙(クロス)は、国交省のガイドラインで耐用年数6年とされており、それを基準に入居者の原状回復費用を算出します。たとえば、10万円分のクロス張替え費用が発生した場合、以下のように入居年数で負担割合が変動します。
 入居1年目:10万円 × (6年−1年) ÷ 6年 = 入居者負担 約8.3万円
 入居3年目:10万円 × (6−3) ÷ 6 = 入居者負担 約5万円
 入居6年以上:入居者負担は1円(耐用年数を超えているため)
このように、クロスがどれだけ使われていたかによって入居者の負担は大きく変わります。


賃料に含まれる通常損耗と重複請求にならないための考え方

通常の生活による汚れや傷(通常損耗)や経年劣化は、本来賃料に含まれており、入居者に重ねて費用を請求することはできません。これを無視して全額請求すると「二重請求」となり、法的に問題視される可能性があります。改正民法621条でも「通常の使用および経年変化による損耗」は原状回復義務の対象外と明記されており、ガイドラインと一致しています。オーナー・入居者ともにこの前提を理解したうえで、適切な負担割合を算出することがトラブル防止につながります。

トラブルを防ぐためにすべきこと

入居時にすべき確認(チェックリスト+写真撮影)

原状回復をめぐるトラブルの多くは、「入居時にすでにあった傷や汚れかどうか」が曖昧なことが原因です。これを防ぐには、入居直後の状態を記録することが非常に重要です。国土交通省が公開している「原状回復確認リスト」を活用し、壁・床・設備の状態を細かくチェックしましょう。
さらに、スマートフォンなどで写真を撮って保存しておくことで、後日の証拠資料になります。特に小さなキズや変色、カビの有無などは画像で残すのが有効です。記録は1部を管理会社に提出し、1部は自分で保管しましょう。


退去時の立会いと費用説明のポイント

退去時は、オーナーまたは管理会社と借主が立ち会って物件の状態を確認することが基本です。この際に損耗や破損の有無、原状回復の必要性が説明されます。立会いの場では、当日中に内容を鵜呑みにせず、疑問がある場合はその場で写真を撮るなどして確認することが重要です。
また、見積書が後日届いた場合は、内訳や単価に不明点がないか慎重に確認しましょう。納得できない場合は説明を求め、必要に応じて消費生活センターなど第三者機関に相談する選択肢もあります。


賃貸保証会社の利用

賃貸保証会社を利用している場合、原状回復費用の支払いを保証会社が一時的に立て替えるケースもあります。これによりオーナーは早期回収ができ、入居者は分割払いや相談が可能になる場合もあり、トラブル回避につながることも。保証契約の内容次第で対象外となる費用もあるため、契約内容を事前に把握しておくことが大切です。

敷金ゼロ物件や特約付き契約の注意点

敷金なし契約での費用回収リスクと対策

近年人気の「敷金ゼロ物件」は、初期費用が抑えられる一方で、原状回復費用を敷金から差し引けないため、退去時の費用回収トラブルが起こりやすくなります。契約時には「通常損耗補修特約」を明記し、ハウスクリーニング代などの負担内容・金額を入居者に明確に伝え、同意を得ることが重要です。


契約前に確認すべき特約の読み解き方

「退去時に○○費用を入居者負担とする」と記載されている場合でも、金額が曖昧だったり、合理性を欠いたりしている内容は無効になる可能性があります。契約書に明確な金額と理由が記され、入居者が十分に理解・同意していることが、有効な特約の条件です。

原状回復費用の相場と業者の選び方

ハウスクリーニングや壁紙の価格帯相場

原状回復にかかる費用は部屋の広さや補修内容によって変動します。相場として、ハウスクリーニングはワンルームで3~5万円、4LDKでは7万円前後。壁紙の張り替えは1㎡あたり1,000~1,500円程度、フローリングの傷補修は1~6万円、全体張替えでは2~10万円ほどが目安です。オーナーは想定コストを見積もって、事前に準備しておくことが重要です。


賃貸管理会社 or 個別業者の選び方と費用比較

原状回復の業者選びは、賃貸管理会社経由で紹介を受ける方法と、自ら業者を探す方法があります。管理会社経由では信頼性が高く、手配の手間が省けますが、紹介手数料が上乗せされるケースも。一方で個人で探す場合は、価格競争力はあるものの、品質や対応にばらつきがあるため、複数社からの見積比較と口コミ確認が必須です。


経費計上・資本的支出の違いと税務上の扱い

原状回復費用は税務上「修繕費」として経費計上できるケースが多いですが、設備のグレードアップや間取り変更などは「資本的支出」として減価償却の対象になります。修繕費と判断されるには、金額が20万円未満または3年以内に周期的に行われる工事であることが基準とされます。税務上の処理を誤らないよう、税理士との連携も大切です。

まとめ

原状回復のトラブルを回避するには、まず「国交省のガイドライン」「2020年の改正民法」「契約書に記載された特約」という3つの柱を正しく理解することが基本です。ガイドラインは一般的な基準を示し、民法は法的なルールを定め、特約は個別契約でのルールを補足するもの。いずれも理解しておくことで、オーナー・入居者双方が納得できる運用が可能になります。
さらに重要なのが、入退去時の状態確認とその記録です。写真撮影やチェックリストを活用して、「もともとあった損耗」と「入居後に発生した損傷」を明確に区別できるようにしましょう。これにより、後々の費用負担の判断や交渉がスムーズになり、無用なトラブルを未然に防ぐことができます。

この記事を書いた人

いえらぶパートナーズ編集部

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